今回紹介する英単語記憶法は、通訳訓練法として指導されている「クイック・レスポンス」という方法を、大学受験用にアレンジしたものです。
その方法はというと…
通訳者は、1日で何百個もの専門用語を覚える必要がある場合があるそうですが、そんなときに通訳者の誰もが使っている方法が「クイック・レスポンス」です。単語集の日本語の部分を隠して英単語が、英単語の部分を隠して日本語が瞬間的に出てくるまで何度も声に出して練習することが、クイック・レスポンスの基本です。この「瞬間的に」というところがポイントです。
■用意するもの
・音声CDつきの英単語集
英単語集は、『英単語ターゲット』のような例文型でも『速読英単語』のような文脈型でもかまいませんが、ページの左カラムに英単語、右に日本語訳というレイアウトのものの方が適しています。また、この勉強法では、CDを用意することが重要です。
■大学受験クイック・レスポンス
英単語集の見開きの2ページをひとつのセクションとして行います。単語数でいえば、だいたい10個くらいをひとつのセクションとしてください。
⑴まず、ひとつのセクションのすべての英単語に対して、CDの音声に合わせて発音練習する。
リスニングの必要な人もそうでない人も、慣れるまで何度も口に出して言ってみてください(最低3回、はじめて出会う単語は5回以上)。大学受験レベルでは、発音できない単語集=聞き取れない単語と考えて差し支えないので、リスニングが必要な人は念入りに。
⑵英単語の意味をざっと確認し、例文を読む。
読解の練習ではないので、例文の読み取りにストレスがかかる人は、日本語訳で意味とイメージをつかんでから、例文を読んでもかまいません。
このとき、漠然とでもいいので、例文が意味する状況をイメージしてみることが大切です。例えば、adore(崇拝する、大好きである)という単語の例文で次のような文があった場合、
Many older ladies adore South Korean actors.
熟年女性の多くが韓国俳優にあこがれている。
あなたのよく知っている「熟年女性」が、例えばぺ・ヨンジュンに黄色い歓声をあげている様子とか、彼のドラマを観てうっとりしている様子とかを思い浮かべて、adoreの概念をイメージとして頭に描いてみてください。抽象語はイメージしにくいので、できるだけ具体的なものに置き換えてみることがコツです。
なぜこんなことをするかというと、adoreを「大好きだ」という日本語を経由して理解するより、adoreの概念イメージで理解する方が最終的に速いからです。つまり、「英語→日本語→概念(意味・イメージ)」の3段階より、「英語→概念(意味・イメージ)」の2段階の方が速いでしょう、ということ。
別に難しそうなことを言っているわけではなくて、あなたもたぶんやっていること。個人の学力によるかもしれないけれど、例えば、
I like pens.
という中1レベルの文なら特に日本語に訳さなくても意味はわかるでしょう?ぼくが言いたいのは、大学受験勉強で覚えなければならない単語も、この段階に達するまで習熟すること(単に覚えるのではなく「習熟」すること)が理想だということです。
とはいえ、まず訳語を覚えて、その後その単語にくり返しであったり、復習したりしていけば、単語のイメージは自ずとつかめてくるので、この時点でできなくても心配する必要なし。
話が長くなりましたが、これをひとつのセクションのすべての単語に対して行います。単語の意味とイメージをつかんだら、
⑶英単語を隠し、日本語を見た瞬間に英単語が言えるように練習する。
つまり、adoreの部分を隠して、「あこがれる」という日本語訳を見てadoreが言えるように、何度も声を出して練習してください。すらすらと出てくるまでくり返し練習すること。この作業をひとつのセクションのすべての単語に対して行います。
これができるようになれば、その逆の操作(英単語→日本語訳)をする必要はありません。日本語訳から英単語が出てくるようになれば、訳語は自然にインプットされているのであまり心配しなくても大丈夫。もちろん、不安な人は、「英単語→日本語訳」を仕上げにやってみてもいいですよ。
相性の悪い単語というのはあるもので、この時点で覚えにくいなと感じたものに関しては、紙に書いて練習するのもよい方法です。多感覚を利用して記憶するという原則は英単語を覚えるときにも大切で、書くという操作を入れることで、視覚・聴覚・触覚の3つの感覚を使って覚えることになるわけです。
⑷仕上げに、ひとつのセクション全体に対してクイック・レスポンスしてみる。
ここまでがひとつのサイクルです。ひとつのサイクルをこなしたら、次のセクションに進んで同じやり方で覚えていきます。
この方法を使えば、1日で100個くらいの単語を覚えることができます。まあ、やろうと思えば何個でも覚えられるかもしれませんが、記憶効率を考えると、1日50個くらいでとめておくのが無難です。なぜなら、1日にあまりに多くの単語を一度に覚えようとすると、覚えたものどうしが頭の中で混乱して忘れやすくなるからです(これを「記憶の干渉」といいます)。あと、50個以上になると復習の管理がけっこう大変になるので、切羽詰まっていない限りは1日50個程度にとどめておきましょう。
いま復習の管理といいましたが、たとえ覚えたとしても放っておいたらすぐ忘れてしまいます。なので、覚えた英単語のメンテナンス作業が必要になってきます。次回は英単語の復習方法について紹介してみたいと思います。