では、賢く学習内容を記憶していくためには、どうしたらよいのでしょうか。そのためには、まず記憶の原理について知っておく必要があります。
記憶には、保持のされ方やその期間によって3タイプに分類されます。感覚記憶・短期記憶・長期記憶の3つです。
■感覚記憶・短期記憶・長期記憶
感覚記憶とは、目や耳などの感覚器からの入力が、意味的な処理をしないまま保持される記憶です。保持される期間は10分の1秒〜10数秒程度だと言われています。これを超短期記憶ともいいますね。この感覚記憶のうち、注意を向けられた情報が選び出されて、短期記憶に入ります。
感覚記憶の情報は、脳の側頭葉の内側にある、「海馬」という場所に送られ、一時的に保存されます。この状態の記憶が短期記憶です。この「注意を向ける」ことは記憶の大前提です。欧米の記憶術では、これはOriginal AwarenessとかAttentionと呼ばれていますね。感覚記憶されるものでも、特別の注意を向けられていない対象は短期記憶に残りません。例えば、信号機の一番上の色って何ですか?もしこの問いに自信をもって答えることができないとしたら、それは信号機の色の位置に対してあなたの注意力が不足していたことを意味します。普段よく目にするものでも、注意が払われていない対象は覚えられません。ですから、覚えたければまず対象に注意を向けることが、記憶術の基本中の基本です。どうやって?という話は追々していきましょう。
さて、海馬に送られた情報は、放っておくと不要な情報と見なされて、記憶から削除されてしまします。短期記憶は、いわば一時的に使うための記憶で、使われている間だけ保存され、不要になると消えてしまいます。保存される期間は、数分から数日程度だと言われています。例えば、友達の携帯の番号を自分の携帯に入力するとき、この短期記憶が使われます。電話番号のボタンを押す間だけ情報が保存され、あとはきれいさっぱり忘れてしまいますね。
一方、海馬によって必要だと判断された情報は大脳皮質に送られ、長期記憶になります。この長期記憶は文字通り長期の記憶で、滅多なことでは忘れられません。数年〜数十年にわたって保持されるようになります。例えば、自分の名前を思い出せない人はいないでしょう。これは、自分の名前が長期記憶化されているからです。忘れてる人がいたら、それはちょっと危ない。。。
いわば、海馬は脳内にある税関です。不要な情報は排除し、必要な情報は大脳皮質に取り込む番人なのです。大学受験や国家試験みたいな長期的に取り組む必要のある試験では、記憶を長期記憶化しなければなりません。ということは、この海馬に情報を入れてくれるようお願いすればいいわけですね。
どうやって?賄賂?強迫?誘惑?←よさないか
その答えは、リハーサルです。リハーサルといっても、劇の予行演習のことではありません。認知心理学の用語で、簡単に言って、頭の中で情報をくり返す処理のことです。もっと細かく説明しましょう。リハーサルには2種類あります。ひとつは精緻化リハーサルといって、もうひとつは維持リハーサルといいます。
■精緻化リハーサル
精緻化リハーサルとは、記憶内容の意味を分析したり、他の記憶内容との関連を分析したりする仕組みのことです。なので、情報を長期記憶化するには、主に、
1.情報に対する理解を深める
2.情報を既知の情報と関連付ける
この2点が大切なのです。
つまり、覚えたい対象の意味をよく理解し、それがすでに覚えている知識とどう関係しているのかを考える。例えば、promiseという英単語を覚えるとき、その意味(「約束、契約」)を確認するとともに、例文を読んで語法を理解するとよく覚えられます。そういえば某消費者金融の名前にこんなのありましたね(関連づけ)。なるほど、お金は貸すけど、ちゃんと返すって約束してねという意味ね(社名の本当の由来は知りませんが、とりあえず覚えられればOK)。
というように、理解を深めることでよく覚えられるというわけです。
■維持リハーサル
維持リハーサルとは、情報を頭の中でくり返すことでそれを保持する仕組みのことです。要するに、復習するということですね。
この2つのリハーサルをくり返すことによって、記憶は長期記憶化されます。そして、維持リハーサルよりも、精緻化リハーサルがくり返される記憶のほうが、長期記憶に作り替えられる度合いが高いようです。維持リハーサルだけをくり返すって、ようするに丸暗記のことでしょ。そのような機械的な丸暗記より、意味を理解して覚えたほうが長く記憶できるのです。
ですから、覚えたい対象の意味をよく理解し、それを他の知識と関連づけながらくり返す、というのが勉強法の基本となります。
次回からは、もっと具体的に、効率のよい記憶の仕方についてお話しましょう。